全人工膝関節置換術

全人工膝関節置換術とは

 膝関節は、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)、お皿の骨(膝蓋骨)によって構成されています。膝関節のスムーズな動きを保つために骨の表面には軟骨があります。 しかし、年齢とともに徐々に軟骨がすり減り、膝関節が変形することで、痛みが生じたり水がたまったりします。これを変形性膝関節症といいます。人工関節置換術の対象は、変形性膝関節症、関節リウマチ、骨壊死などの痛みにより日常生活や歩行に支障をきたしている方になります。

正常な膝関節(20代女性)

正面像 側面像


変形性膝関節症(70代女性)

正面像 側面像

膝関節の傷んでいる骨の部分を切り取り、人工の関節に置き換えることで、歩行時や動作時の痛みを取り除くことができます。この手術には、軟骨のすり減り方や骨の傷み具合により、全てを置き換える方法(全人工膝関節置換術)、膝の内側あるいは外側の関節部分を置き換える方法(片側人工膝関節置換術)があります。

人工膝関節置換術の実際

  • 手術前の検査
    身体の状態や血液検査を行います。また手術では出血を伴い、その時に他人の血液を使用しなくていいように、自分の血液(400cc)を採取しておきます。また、リハビリにおいて、痛みの程度や膝の曲がり、筋力の測定、筋力トレーニングとダイエット方法の指導も行います。その際、家屋状況の調査も併せて行います。
    ※ 手術により筋力は大幅に低下します。そのため、術前から筋力トレーニングを行う事は重要です。また、術前の筋力や活動性は術後の状態に大きく影響してきます。術前も出来る限り運動や健康的な生活を送るように心がけましょう。

  • 手術内容
    まず、膝蓋骨を中心に約10~15cm程度縦に切開します。次に傷んで変形した骨を切り取り、人工関節と置き換えます。人工膝関節には、大腿骨側と脛骨側の金属(コバルトクロム、チタン)と、その間に入り軟骨のかわりとなる超高分子ポリエチレンを使用します。手術時間は1時間半~2時間で、麻酔の時間も含めると約2時間半程度です。

    変形性膝関節症(70代女性)

    正面像 側面像
  • 手術後
    手術後3日間は点滴を行います。リハビリは手術当日より開始し、早期離床・歩行を実践しています。傷口にはテープを使用しているため抜糸の必要はありません。

  • 当クリニックにおける人工膝関節置換術
    当クリニックでは手術前日、もしくは2日前から入院していただきます。手術後は当日からリハビリを開始します。当院では早期の歩行能力向上の観点から、状態に応じて術後1日目で杖歩行を行います。最終的には2週間前後で杖歩行にて退院となっています。この手術により歩行時の痛みなどは軽減していきますが、人工関節が馴染むまでは膝まわりが腫れたり、熱を持ったりします。個人差がありますが半年から1年はかかりますので、無理をしすぎないようにしていただくことが大切です。

  • 入院中のリハビリ
    手術前:手術後必要になる自主訓練の指導、筋力・可動域等の測定。
    当 日:立ち座りの練習および、血栓形成予防の指導。
    術後1日目~:関節可動域および筋力訓練、歩行訓練(歩行器での歩行が安定した後、
           出来るだけ早期に杖歩行へと移行)、階段昇降訓練等の開始。
           *ALTER Gを段階に合わせて開始。
    退院前:日常生活に即した動作または注意点の指導。

 

退院してから

『手術をしたからもう大丈夫!』と思いがちですが、退院後も膝の管理が重要です。永く良い状態を保つためにも以下のことに注意しながら生活を送って下さい。

リハビリ

リハビリは入院時同様に続けることが大切です。

  • 1. 膝関節の可動域訓練
    全人工膝関節では120°~125°、片側人工膝関節では130°~145°くらいまでしか曲げることができません。自分で膝の曲げ伸ばしを行い、膝の可動域を維持するようにして下さい。人工関節の種類によって膝関節の可動域が異なりますので、詳細は担当医師、理学療法士にお尋ね下さい。

  • 2. 筋力訓練
    膝の前後を支える大腿四頭筋とハムストリングスを鍛えることで、痛みを軽減し、膝にかかる負担を軽くします。効果は2~3ヶ月後に現れてきます。また、プールでの水中歩行も効果的で、エネルギー消費量も多いため、ダイエットにも有効です。

  • 3. 歩行訓練
    屋外歩行の際は杖を使用し、転倒に注意して下さい。歩くことは大切ですが、歩くだけでは筋肉はそれほど強くなりません。

日常生活での膝管理

  • 毎日、膝の状態をチェックして下さい。手術後3ヶ月~1年くらいは痛みや違和感、熱感などがありますが、次第に馴染んでいきます。『いつもと違う。何かおかしい。』と思ったときは、まず冷やして様子を見て下さい。(冷やし方は下記をご参照下さい。)症状の改善が見られないときは、リハビリの担当スタッフにご相談下さい。

  • アイシング(冷やし方)はアイスパックやビニール袋に氷を入れて、タオルに包んで膝に当てます。冷やす時間は20~30分程度で、冷たい感じを通り越して、触った感覚がなくなるくらいまでです。

  • 手術後は膝関節の可動域に制限がありますので、正座や和式トイレ利用ができません。よって、イス中心の日常生活に慣れて頂くことになります。また、過度の負荷がかかる重作業も控えることが望ましいです。

  • 体重の増加は膝に負担をかけます。そのために、人工関節の耐用年数を長くするためには体重管理が非常に重要です。日々の食事に気をつけ、肥満を防ぐようにして下さい。

 

手術(退院)後の合併症

人工膝関節置換術は、現在では十分に安全な手術となっています。 それでも起こり得る合併症について知っておいて下さい。

  • 感 染
    感染は人工関節の手術で最も恐いことです。感染が起こると、下肢全体に尋常ではない熱感や腫れ、痛みが伴います。場合によっては数回の追加手術が必要になることがあります。日ごろから手術創部を清潔に保つようにして下さい。また、虫歯やすり傷、切り傷などから感染を起こすこともありますので、きちんとした消毒や治療を行って下さい。

  • 脱臼・亜脱臼
    膝をついたときにひねったりすることでお皿の骨(膝蓋骨)の脱臼が起こることがあります。膝をつくことが可能な方とそうでない方がいらっしゃいます。膝蓋骨まで削っている方はつくことができません。つくことが可能な方でも軽くつく程度で、よつばいでの移動や雑巾がけなどは避けて下さい。

  • 人工関節の磨耗
    人工関節は摩耗しにくい材質で作られていますが、長い年月のうちにすり減ってくることがあります。

  • 人工関節のゆるみ
    長い年月のうちに、少しずつ骨と人工関節の接合部にゆるみがおこる可能性があります。ゆるみがおこると人工関節の入れ替え手術をしなければなりません。従って、手術後は定期的にレントゲン検査を行います。

  • 人工関節の破損
    脱臼や転倒したときなどの衝撃で人工関節が壊れることがありますので、転倒などに注意して下さい。

外  来

院後は定期的に診察があります。診察時には採血とレントゲン検査があります。採血では感染が起こっていないか、レントゲン検査では人工関節がきちんとはめ込まれているかどうかを診ます。この定期的な診察は最低でも年に1回行い、一生続けて下さい。
当クリニックでは外来でのリハビリも行っています。外来でも入院時同様に膝の曲がりをチェックしたり、プールを利用していただいたりしています。また、心配事や疑問などがあるときはスタッフにご相談されてはいかがでしょうか?

手術後は運動をしっかりと行い、膝に負担をかけすぎないような生活を送って、
膝と上手に付き合っていくようにして下さい。