手術をしたから100%断裂しないというわけでは、ありません。1度断裂された方は、反対側を含めて断裂する確率は、3%〜12%と言われています。前十字靱帯を断裂したことのない人が断裂する可能性があるのは0.2%と報告されています。
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再断裂予防について |
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どういう人が損傷しやすいか、どうしたら前十字靭帯が切れるのかなど、いろいろな情報がさまよっています。ここでは、できるだけわかりやすく前十字靭帯についての情報を紹介したいと思います。 |
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Risk Factor(危険因子)
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1) |
性別
女性選手は男性選手に比べ、4から6倍前十字靭帯を損傷する確率が高いといわれています。
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スポーツ
一般的に、相手との接触が多いスポーツは、ハイリスクスポーツといわれており、リスクが高いスポーツは、バスケットボール、サッカー、バレーボール、ハンドボール、柔道、ラグビー、体操などです。しかし、75〜80%のACL損傷は、ほかの選手との接触がないときに起こっています。
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3) |
体幹の筋力/位置覚の低下
一言で言うと、体幹の筋肉とは、骨盤に起点、終点を持っている筋肉のことを言います。おなかの筋肉というと、みなさん、割れる筋肉を思い浮かべると思いますが、スポーツ医学、リハビリ、ケガ予防の観点から言うと、大事なのは、おなかが割れていることではなく、その下に隠れている、腹横筋という筋肉です。この筋肉は収縮したとき、コルセットのように、Core をがっちりと固定してくれます。腹斜筋とともに、この筋肉がしっかりしていないと、手足が効率よく使えません。また、前十字靭帯損傷を含む下半身の怪我とこの筋肉の筋力低下の関連性も研究で明らかにされています。
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4) |
リスクが大きい姿勢
ジャンプの着地、急な方向変化などは、リスクが高いと言われています。動作分析などの研究から、ACL断裂時の体のポジションに共通点があることがわかっています。その共通点は、足が外を向いていること、膝が内に折れていること、膝が内を向いている(股関節が内旋)、膝の角度が比較的浅いこと、体の重心が足から遠くに離れていることです。リハビリ、ケガ予防のトレーニングでは、このような危険な動作を直す、または避けるトレーニングも必要になります。特に、ジャンプの着地で膝が内側に入っている場合は、床からの反力をうまく吸収・分散できず、前十字靭帯に負担がかかることもわかっています。 |
5) |
筋力のアンバランス
大腿四頭筋とハムストリングスの筋力のバランスは、ケガを予防する上で大切です。一般に、大腿四頭筋のほうがハムストリングスに比べて強いですが、その割合が低くなると前十字靭帯損傷のリスクが増えてくることがわかっています。その割合は、ハムストリングスの筋力が大腿四頭筋の65から70%は必要というのが多くの見解です。実際に、この割合が低いと前十字靭帯をけがしやすいというデータも研究から出されています。特に、女性選手はこの割合が低い傾向にあり、また、男性に比べ、膝の安定性のために、大腿四頭筋に頼る傾向があります。これもまた、女性が前十字靭帯損傷を起こしやすい理由の一つではといわれています。
左右の筋力の差もまた、危険因子 の一つとして取り上げられます。左右にあまりにも筋力差があると、どちらかの膝にストレスがかかりやすくなります。これがほかの悪条件と重なると、ストレスがかかった膝にケガが起きます。必ずしも、筋力が弱いほうが怪我しやすいとは限りません。ストレスが多くかかった膝で、膝がそのストレスに耐えきれないときにケガが起きます。
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6) |
Proprioception(位置覚)の低下
みなさん目をつぶって、膝を曲げたり伸ばしたりしてみてください。目で見なくても、どれくらい膝が曲がっているかだいたいわかりますよね?これが位置覚といわれるものです。関節、筋肉、または靱帯にも、メカノレセプターといわれるセンサーが付いていて、筋肉や靱帯が伸びたりすると、その情報を中枢神経に送ります。すると、中枢神経から信号が送られてきて、筋肉などはそれに対応しようとします。たとえば、運動中に前十字靭帯にストレスがかかったとします。前十字靭帯の メカノレセプターはこれを感知して信号を送ります、それを感知した中枢神経はこのストレスから前十字靭帯を守ろうと信号を送り返します。それを受けた筋肉は、それに従おうと働きます。このメカニズムがうまく働いていない、または、筋肉が中枢神経からのシグナルに対応できない場合、前十字靭帯損傷のリスクが高くなるといわれます。 |
7) |
受傷歴
前十字靭帯に限らず、一回ケガをすると、またケガが起きやすくなるというのが見解です。これは、同じ膝をケガする場合もあれば、逆の足をケガする場合も含まれています。
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前十字靭帯損傷の危険因子はこれが全てではありません。自分がこれに当てはまるから、前十字靭帯を必ず切るわけでもなければ、当てはまらないから切らないわけでもありません。しかし、これらの項目は前十字靭帯損傷の確立と深い関連性があるので、無視するわけにはいきません。もし、このどれかに当てはまるのであれば、可能な限り危険因子を改善し、予防に努めるべきです(1と2以外)。また、前十字靭帯は一つの要因が原因で断裂するというよりも、いくつかの要因が重なり合って、損傷するとされています。危険因子を一つでもなくす、または、軽減することで、前十字靭帯の損傷の発症率を少しでも下げることができます。 |
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予防の取り組み |
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・DVDやパソコンを用いての指導
・各スポーツに応じて段階的な動作指導(上記のリスクファクターを理解させながら)
・術後経過に応じて重心、筋力測定 |
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目標を見失わないように |
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手術した後は、どうしても出来ないことに目が行きがちですが、大事なのは何のために手術をしたか、ということです。将来的に膝の軟骨が壊れるのを防ぐ事やスポーツ復帰を望んで手術に踏み切ったと思います。
今、走れない、スポーツが出来ないと考えるのではなく、将来、安全に出来るようになるために、“今”やれることをしっかりやりましょう。 |